文字サイズ

犯罪に強いまちをつくる

防犯環境設計普及啓発事業

防犯環境設計普及啓発事業

福岡県警察では、この防犯環境設計の考え方や手法を広げるため、パンフレット作成やセミナー開催などの「防犯環境設計普及啓発事業」を実施しています。
平成19年度は、防犯環境設計セミナーを「第1回安全・安心まちづくり県民の集い ふくおか」と同時開催しました。(平成20年1月20日 福岡ファッションビル)

「防犯に配意したまちづくり~環境設計に基づく防犯対策~」[PDF/4.86mb]

防犯環境設計セミナーの様子 (平成20年1月20日:福岡ファッションビル)

「防犯まちづくりに向けて」

独立行政法人建築研究所
樋野 公宏

1. 「防犯まちづくり」の現状

2000年の「安全・安心まちづくり推進要綱」(警察庁)以降、「安全・安心まちづくり」、「防犯まちづくり」の掛け声のもと、各地で住民による自主防犯活動等の発展が見られる。しかし、地域環境の改善にまで取り組む事例はいまだ少ない。国の対策も、「防犯に配慮した共同住宅に係る設計指針」の公表、住宅性能表示制度への防犯に関する評価項目の追加など、建築レベルでは進捗が見られるが、地域や都市など、まちづくりのレベルに十分に踏み込めておらず、自治体、住民等が防犯まちづくりに取り組む上での拠り所がないのが現状である。

2. 防犯まちづくりの考え方

英国では、省庁間の連携により、”Safer Places”(より安全な場所)という防犯まちづくりのガイドラインが示され、政策に位置づけられている。このなかで防犯は住環境や生活の質(QOL)を構成する一要素として認識され、犯罪や犯罪不安をなくすための方法論が以下の「7つの原則」にまとめられている。
・動線(Access and Movement)
・活動(Activity)
・維持管理(Management and Maintenance)
・所有意識(Ownership)
・物理的防御(Physical Protection)
・構成(Structure)
・監視性(Surveillance)

概念が広範かつ詳細で、住民参加の必要性、地域特性の重視など、わが国の防犯まちづくりにおいて参考にすべきところが多い。

3. 防犯まちづくりに向けて

小学校区単位での「地域安全マップ」作成など、警察や自治体の協力のもと、地域一丸となって防犯上の課題を発見する取り組みが行われている。地域で共有された課題を、まちづくりの計画に反映させる道すじを用意することで、意識の向上のみならず、地域環境の改善にまで繋げられる。この「防犯まちづくり計画」は、状況変化に対応すべく、地域住民が参加して更新を繰り返す必要がある。

4. 防犯設備士への期待

わが国の防犯まちづくりを進めるにあたっては、地域でアドバイスのできる専門家を育成する必要がある。社会的に認知され信頼も高い防犯設備士に、その役割を担って欲しい。そのために以下の提言を行う。
・試験項目の見直し、既存の防犯設備士の再教育による防犯設備士の知識の幅の拡大
・防犯設備士の全国的普及、量的拡大を通じた、地域に根ざした防犯設備士の配置

樋野 公宏
1975年 愛媛県北条市(現・松山市)生まれ
1998年 東京大学工学部都市工学科卒業
2003年 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)
2003年 特定非営利活動法人しょうまち理事長
2004年~独立行政法人建築研究所住宅・都市研究グループ研究員

住宅・都市の防犯に関する研究を行う傍ら、防犯優良マンション認定制度等の制度立案にも携わる。防犯設備士試験審議会委員、中央区生活安全協議会会長などを務める。最近の著書に「犯罪予防とまちづくり~理論と米英における実践」(共訳)がある。

「最近の侵入手口と防犯対策」

警察庁指定広域技能指導官
富田俊彦

1. 侵入手口の現状

○ 減少し続けてきたピッキングによる侵入盗事件は本年上半期では、昨年
1年間の認知件数を上回っており増加傾向にある。

○ ドアに穴を開ける、ドアスコープを外す、郵便受け等から用具を使用してサムターンを回して開錠、又はドアの戸先から針金を差し込んでサムターン回して開錠する等、特異な侵入手口が発生している。

○ 従来からの侵入手口である窓ガラスを破壊したり、ドア錠をバールでこじ破る侵入手口が増加している。

○ 住居に夜間侵入した犯人が狙った現金や貴金属等が見当たらない場合には、居直って強盗になる事件が増加している。

○ 18年前に発生した、壁を破って侵入する出店荒し事件が再び同じ手口で発生している。

2. 防犯対策の問題点

○ 永い間、平和と安全に慣れてしまい、今ほど侵入犯罪に対して危機感を持つことの無かった我が国では、これまで錠前、窓、ガラス、シャッター等の建物部品はコストや便利さが優先して製造されたために、防犯性能を高める上で十分な取り組みがされなかったので、諸外国より建物部品の防犯性能は格段に劣るといわれている。

○ 犯人グループは我々の従来の防犯概念を超えたところで常に弱点を狙い確実に犯行している。侵入用具は改良され、新たに開発されており、侵入手口や犯行方法が日々進化している。

3. これからの防犯対策

○ 侵入までにいかに時間を掛けさせるか、いかに泥棒を悩ませ、諦めさせるかが防犯対策を考える上で重要となる、現在の侵入手口対策として、防犯性能の高い建物部品の普及が求められている。

○ 厳しい試験に合格し、防犯性能の高いと認定された錠前、ガラス、ウインドー・フィルム 、ドア、窓、シャッター等の建物部品(CP製品)として、現在17種類、約3,000品目が公表されている。
私達はこれらの建物部品の必要性を理解し、正しく選択して、広く普及すればハード面で住宅の防犯性能は確実にレベルアップする。

○ 住宅の防犯性能向上を図るための各施策の推進
・ 国土交通省では住宅の開口部の侵入防止対策として「住宅性能表示
制度における防犯に関する事項の追加」を平成18年4月1日から施行され防犯性能の高い建物部品を使用することを推奨している。
・ 全国防犯協会連合会、日本防犯設備協会、ベターリビングの3公益法人では、平成18年4月から各都道府県の防犯と住宅の関係公益法人が共同して防犯マンション認定する制度の全国展開に取り組でいる。

○ 特殊開錠用具所持の禁止等に関する法律の適切な運用

○ 人に優しさと思いやりの日本人の心を大切にした防犯活動

○ これから増加する団塊の世代の人達と若者が参加する地域防犯活動

○ 将来も子供達が安全で安心して暮らせるまちの防犯活動

○ 防犯活動には特効薬はありません、街の住民と自治体・警察が連携して、確かな情報に基づき、それぞれの地区に合った防犯対策のアイデアを出し合って皆で実行し、それを継続することが重要です。

富田 俊彦
1943年 静岡県生まれ
1962年 警視庁入庁
1969年 日本大学法学部卒業

巡査、巡査部長、警部補、警部と通算28年間刑事部捜査三課に勤務して、窃盗犯捜査に従事。特に被害現場に臨場し、侵入手口の分析、同一手口事件の把握等の手口捜査を担当。
2001年 警視庁技能指導官・警察庁指定広域技能指導官
2004年 警視庁退職後、警視庁嘱託員として捜査第三課勤務

警視庁退職後も、その卓越した現場観察要領や犯行手口分析等の捜査技術により、全国の警察職員に対してその捜査技術を伝承する「警察庁指定広域技能指導官」に指定され、防犯実務専科等で後任の指導・育成に当たっている。

「東京都安全・安心まちづくりアカデミー」を始め、日本防犯設備協会全国防犯連合会、日本ロックセキュリティー協同組合等の業界団体や都民・市民・区民の防犯ボランティア・生活安全の集い等の講演会の講師を務めるとともに、「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」における防犯性能試験の指導員でもある。

会場の模様

防犯ガラス破壊実験